試料中における特定の鉱物の含有量測定−試料が持つ情報の数値化の一例として−

郷津 知太郎

 
 「この石の岩石名が知りたいんだけど」
 筆者が蒜山地質年代学研究所で分析一般を担当する様になってから11 年が経過した.担当している分析は一般に理学的な分析に分類されるもので,対象となる試料は岩石,堆積物,水など,地質学分野のものがほとんどである.これらの試料を分析の対象として見てきて,いつも考えることがある.それは「なんとか結果をより定量化できないか」ということである.特に工学的な業務の一環として行われる分析では,定量性の必要性を強く感じるし,発注元からの要請,期待もある.しかし,自分が担当している分析については,結果の定量化は現実的には難しいことが多い.何より地質学的な試料は,様々な情報を記録していて,しかもそれらが多かれ少なかれ混在していて分別が困難なためである.
 例えば業務では冒頭に挙げた様な問い合わせを受けることがしばしばある.これは単純な問いに見えて,その実,難しい問いである.試料が変質した火山礫凝灰岩質の岩石であった場合には,対策会議を招集したくなるくらいである.この場合の分析手順は薄片を作製して,後に偏光顕微鏡観察を行うことが常道である.しかし火山礫凝灰岩質の岩石は,巨視的には火成岩的側面と堆積岩的側面とがあり,どちらとも言いがたい場合もしばしばである.より詳細に見ていけば,含まれる岩片は火成岩(火山岩と基盤の深成岩)だけでなく,堆積岩,変成岩が含まれることがあり,それらの別,およびその細別,火山岩については本質,類質,異質の区分が必要であり,鉱物片もおおよそ同様である.さらに火山礫凝灰岩質の岩石には変質岩として
の側面もある.依頼の理由が「フィールドネームがつけにくい,なぜなら試料が変質しているから」ということも多く,試料のほとんどが変質鉱物に置換されている状態のものも珍しくない.遠目には真っ赤な斑状変晶と,片理を持った緑色の基質からなるクリスマスカラーのエクロジャイトの様な試料が,実際には変質した火山礫凝灰岩であったという例にも,少なくとも2 度はお目にかかっている.
 業務として実施する上では,どの様な情報が必要かは把握できていることが多いので,それに従って観察結果をまとめていくことになるが,岩石鑑定はどうしても観察者の主観に依存した定性的な報告にならざるを得ないのが現状である.あるいは観察者の判断に依拠せず常に一定の報告書を書くとすれば,無理を承知で厳密な鑑定基準を決め,常にこれに従えば良いのかも知れない.間違いなく複雑怪奇な基準になるが,少なくとも観察者は知識と経験をもとにした,ある基準で鏡下の観察をして岩石名を導いているので,不可能とは言えない.各構成要素の含有量と相関性,色,円磨度,粒径,定向性などを数値化して,閾値で判定すれば,機械的に岩石名を決めることもできるはずである.
 岩石名を決めるために,この鑑定基準を作成する気合いを残念ながら筆者は持ち合わせていないが,試料を構成する各要素について,それらが持つ情報を個々に数値化することは実際には普通に行われており(例えば画像解析的な分析等),弊社も業務として請けることがある.数値化された情報は結果がシンプルであり,従って使いやすさがある.何より地質学的試料の分析結果の定量化を目指したい筆者にとっては,やりがいを強く感じる業務とも言える.
 以下にそうした分析の一例として,試料中における特定の鉱物の含有量測定について,弊社での実施例を紹介する.これは地質学的試料について定量的分析を行う試みの紹介でもある.なお,実施例においてしばしば対象を限定し,また手法を替えるなどをしている理由については,先に述べることにする.

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