なかなか難しい地質技術者としての 地域での取り組み -盛土造成地滑動崩落のアウトリー チを例に-

西村 貢一

 
 以前,地質技術創刊準備号(蒜山地質年代学研究所創立10 周年記念特集)に「子どもと地域社会のために地質技術者は何ができるか?」(西村,2006)というエッセイのようなものを書きました.その中では私は,地質技術者が将来を担う子どものために貢献できることは身近にたくさんあるということを訴え,私が取り組んだ地域における活動などについて紹介しました.早いものであれから約9 年が経過しました.
 その後も自分なりのペースで,在住する奈良県生駒(いこま)市を中心として,PTA や学校イベント・クラブ等における地球科学や防災に関するアウトリーチや,自宅マンションでの防災組織の充実に向けた取り組み,防災・減災ニュースの発行などを行ってきました.これらはまさに身近なところでの活動です.ところが2011 年3 月11 日に発生した東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)を契機として,私の活動内容が少し変わってきました.
 私は発災2 週間後から石巻(いしのまき)・女川(おながわ)をはじめ牡鹿(おしか)半島を中心に,現地の被災状況の把握など地質調査を行いました.そこで目の当りにした未曾有(み ぞう)の災害に対して,私は専門家としての責任と無力感に苦悩しながらも,「防災・減災のために少しでもできることを今やらねば」と決意しました.
 その後,私は生駒市の協力も得てNPO(後述)として防災に関する市民講座を開催したり,生駒市の危機管理課とハザードマップについて議論を重ねたり,近隣市の自主防災会の立ち上げに協力したりしてきました.その中でも特に私は,地震に伴う盛土造成地の滑動崩落災害のアウトリーチに力を入れて取り組んできました.というのは,生駒市には海や大きな河川がなく軟弱地盤も少ないので,周辺地域と比べ水害や液状化等に伴う災害リスクは相対的に低いものの,起伏に富んだ土地を造成して宅地が設けられている箇所が多く,地震に伴う谷埋め盛土の滑動崩落災害が危惧されると考えたからです.また,この災害に対しては法律が整備されていますが十分には機能しておらず,法律に対する認知度も低いからです.私の取り組みを紹介す
るにあたり,まずは盛土造成地の滑動崩落について説明したいと思います.

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