研究報告誌「地質技術(英文名:Engineering Geology of Japan)」は,地質に関するあらゆる技術の向上に資することを目的として,2006 年の創刊準備号(蒜山地質年代学研究所創立10 周年特集)の出版を経て,2011 年に創刊号が発行されました.早いものでこのたび第5 号を上梓することとなりました.今年はちょうど蒜山地質年代学研究所の創立20 周年に当たるため,本号はその特集号として企画され,出版するに至りました.

 創刊準備号のまえがきに書かれているように,「地質技術」は主に地質学に携わる研究者および技術者の方々を対象として,地質情報の公開と共有に向けたネットワークづくりを念頭に,今までの学会誌や科学雑誌には掲載されにくかった地質情報の発信の場となることを目指してきました.これまでに「より高精度高確度の放射年代測定を目指して」(創刊号),「西南日本内帯の白亜紀~古第三紀珪長質火成岩類の年代学的研究」(第2 号),「断層の活動性評価手法の向上を目指して」(第3 号),「斜面崩壊の素因を探る」(第4 号)というテーマを設け,内外の執筆者による合計14編の論文を掲載してまいりました.また,地質技術者や研究者にとってより使いやすいものを作るべく,「岩石図鑑」等の地質データベースも企画してまいりました.毎号試行錯誤を重ね,より充実した紙面になるよう努めてまいりましたが,読者の方々はどのように感じておられるでしょうか.

 さて,本誌の編集方針には,掲載される内容として地質を対象とする「研究論文」と「読み物」が挙げられています.これは上記の目標を念頭に設けられたものですが,創刊準備号(第0 号)を除き,これまで「読み物」に該当する原稿の掲載はありませんでした.学問領域の専門化・細分化・学際化が進み,また多岐にわたる調査技術が日々進歩している今日において,専門的な「研究論文」だけでなく,平易な内容の「読み物」を扱うことによって,様々な立場にある研究者および技術者間の情報共有において,本誌がより一層の貢献を果たすと期待されます.そこで,第5 号ではテーマは自由として,日頃からお世話になっている研究者や技術者の方々に「研究論文」や「読み物」の投稿を募りました.年末年始に依頼,立夏の候には投稿という短期間の条件ではありましたが,多くの方から快諾の返答をいただき,最終的に所員の原稿も含めて,研究論文8 編,読み物20 編,合計28 編もの原稿を掲載することができました.また,今回初めて英語の研究論文と中国語の読み物を掲載する機会に恵まれました.次に紹介しますように,本特集号は多種多様な研究論文と読み物からなり,「地質技術」創刊当初に思い描いていた地質情報の発信の場に少しだけ近づけたのではないかと考える次第です.

 本特集号は,研究論文と読み物の2 部構成になります.

 研究論文は年代学,岩石・鉱物学,地球化学,構造地質学,堆積学に関する論文と,データベースからなります.まずは年代学に関する3 つの論文,すなわち,西南北海道積丹-洞爺地域の熱水鉱床のK-Ar 年代に関するレヴュー(沢井 長雄・板谷 徹丸),関東山地のジュラ紀-白亜紀付加体のジルコンU-Pb 年代とそれに基づく陸弧後背地変遷の検討【英文】(青木 一勝・磯崎 行雄・坂田 周平・佐藤 友彦・山本 伸次・平田 岳史),ルミネッセンス年代法(TLやIRSL)による被熱履歴測定方法のレヴューと測定例の報告(小畑 直也・下岡 順直)から始まります.次に,岩石・鉱物学および地球化学に関する2 つの論文,山口県蓋井島の白亜紀花崗岩に記録されたマグマ混交・混合現象とそのマグマ過程の検討(今岡 照喜・小林 実和・曽根原 崇文),古第三紀神戸層群中の凝灰岩層対比指標としての黒雲母化学組成の報告(谷 保孝・中川 渉)が続きます.構造地質学に関しては愛媛県砥部衝上断層の変形構造に基づく中央構造線の運動像の検討(窪田 安打),堆積学に関しては平成東日本大津波による北上川津波遡上堆積物の報告(三上 禎次・鈴木 寿志)があります.そして最後に,前号(第4 号)を補完する形で東北日本に産する高圧変成岩類のK-Ar 年代値データベース(辻森 樹・八木 公史)が示されます.

 読み物は,八木 公史による蒜山地質年代学研究所における2006 年から2015 年までの出来事の紹介に続き,前半は所外の方による読み物,後半は所員による読み物からなります.

 読み物の前半は,まず防災に関連する3 つの話題,すなわち,コンサル事業およびジオパークに関する地質技術者としての取り組み(永川 勝久),これからの防災教育と大学の役割(此松 昌彦),Web 版岐阜県地質図『ジオランドぎふ』の開発経緯とその活用(小井土 由光・棚瀬 充史・大庭 哲哉)から始まります.次に,貫入岩体の母岩温度の時間変化を求める表計算ツール(兵藤 博信),地質調査業への小型無人航空機(UAV)の導入方法と今後の展望(宿輪 隆太)といった地質調査におけるツールの紹介が続きます.そして,海外からの地質に関する話題として,中国における温泉文化とその開発利用の発展と現況についての紹介【中文】(周 春新,日本語訳協力:後藤 広和)があります.続いて,NPO 法人地球年代学ネットワーク(jGnet)に関して,その設立経緯と初年度の活動記録(板谷 徹丸),jGnet の研究と普及啓発の活動拠点とすべく取り組んだ廃校校舎を活用した地球科学系博物館設立構想の顛末(竹下浩征・板谷 徹丸)が述べられます.そして最後は,弊社とjGnet が地球科学の普及活動の一環として取り組んでい
る,岡山市表町エリアにおける“まちなか化石探検”(矢部 久智)が紹介されます.

 読み物の後半は,地質調査業における技術士と博士の協働に関する提言(竹下 浩征)に始まり,蒜山地質年代学研究所におけるK-Ar 年代測定業務の回顧録(八木 公史),地質調査アルバイトの実績報告とその所感(曽根原 崇文),社屋・設備改変と岩石加工に関する紹介(藤原 誠)が続きます.次に,所員の業務に関する取り組みとして,地質学的試料が持つ情報の数値化に向けた鉱物含有量測定方法の考察(郷津 知太郎),CNS 元素分析の解説および新業務としての展望(後藤 隆嗣),希ガス同位体質量分析計用高電圧電源の改造記録(高野 進)が紹介されます.また,地質に関する紀行文・エッセイとして,北海道最長洞窟「北海洞」の発見記(長谷川 航),エチオピア,Awash 川下りの旅行記(香本 佳彦),オーディオ用途部品と岩石・鉱物の繋がりの紹介(井上 善夫)が続きます.そして最後に,地質技術者としての地域におけるアウトリーチ活動(西村 貢一)が述べられ,全28 編からなる本特集号が締めくくられます.

 本特集号は出版まで非常にタイトなスケジュールでありましたが,著者の方々には投稿から原稿の修正・校正作業に至る過程におきまして,編集委員会に協力していただきました.また,研究論文の査読に当たっては,編集委員(郷津 知太郎,八木 公史,竹下 浩征)だけでなく執筆者
およびそれ以外の方々にもお世話になりました.編集委員以外で査読に協力していただいた方々(50 音順)は,青木一勝さん,板谷 徹丸さん,今岡 照喜さん,小畑 直也さん,草野(本郷)高志さん,後藤 隆嗣さん,高木 哲一さん,辻森 樹さん,原山 智さん,藤原 誠さんです.ま
た,読み物の編集に当たっては,熊谷 英憲さんと佐藤 桂子さんにもご協力をいただきました.最後に渡部 恭久さんをはじめ友野印刷株式会社の方々には,スケジュールが押す中,最後までお付き合いをしていただきました.以上の皆さまに,心より感謝申し上げます.

2015 年8 月1 日
研究報告誌「地質技術」編集委員会 
委員長 曽根原 崇文 


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